「付加価値の高い製品開発に役立っているRTOS」
カワイデジタルピアノ「CN29」シリーズ
株式会社河合楽器製作所
株式会社河合楽器製作所は、ピアノの楽器生産・販売を主軸に音楽文化への貢献を目的として企業活動を推進しています。
主力事業の楽器生産では、グランドピアノやアップライトピアノなどのアコースティックピアノ、先進的なデジタル技術を駆使したデジタルピアノ、新しいピアノライフを提案する消音ハイブリッドピアノなど多岐にわたる種類の製品を国内外で生産しています。
CN29シリーズ
この度、家庭用電子ピアノ「CN27」シリーズ(現在はCN29)にμC3/Compactを採用頂いた、電子楽器事業部の村松様にお話を伺いました。
「CN29」シリーズは、木製鍵盤に近いタッチを実現する「鍵盤ウェイト」を備えた「レスポンシブハンマーアクションⅢ鍵盤」を搭載しており、リーズナブルなだけでなく木製鍵盤のタッチ感にもこだわって開発されている入門者にピッタリの電子ピアノです。
電子楽器事業部
開発課
村松 政弘様
-導入前-
コスト的に不利だった導入前
――μC3を導入したきっかけを教えてください。
当時使っていたメインCPUがそろそろ代替わりかなというタイミングで、楽器業界ではUSB接続がブームになっていました。電子楽器には「MIDI」というインターフェースの規格がありまして、DINコネクタを使って楽器同士やコンピュータと接続していました。特に、コンピュータと接続するにあたってよりシンプルな接続のUSB接続が主流になり始めた頃でした。
というのも、楽器市場の動向として、家庭内ではピアノを他の楽器と繋ぐ機会が減少し、それよりもPCに繋いで録音やプレイをするという形が増えてきていたんです。従来の規格だとMIDI IN/MIDI OUTと2本のケーブルが必要なのですがUSBだと一本で済むんですよね。なので、USBを使ってMIDIの信号を流していました。
しかし、当時は接続するために専用のボードを起こし、USB⇔MIDI変換してメインCPUと接続していたのですが、それだと柔軟なシステムが組めるという一方でどうしてもコスト的に不利になっているという課題がありました。
ちょうどその頃、段々とワンチップマイコンの中にもUSBのペリフェラルを内蔵しているようなものが出てきたので、それを使おうという動きになりました。将来的にUSBのストレージ系単体でUSBメモリなんかもあると良いね、と。
当時はコアがArmの流れがあり、ちょうどCortex-Mがワンチップ用の設計になっていて、そういう時流に乗っていくというのもCPU選定の基準になりました。
USBのミドルウェアを運用していくにあたり、必然的にOSが必要になってきていたので、RTOSの採用を検討し始めました。
――いつ頃からCPUの検討をはじめたのでしょうか?
CPUの選定を開始したのが2013年頃で、当時の各CPUメーカーの状況を見ながら、勢いがあり積極的な提案をしてきた某メーカ製のCortex-Mマイコンに決定しました。Armコアだと何かあった時に移植性が高いと思ったのも理由の一つです。
――他のマイコンも検討されていたのでしょうか?
そうですね。当時、Armコア以外でもUSBのペリフェラルを搭載した製品が出ていたので、それらも含めて、ROM/RAM容量やパフォーマンス性を考慮しながら、その中でも動作周波数の高いマイコンに決定しました。
――その後のRTOS選定について、詳しく教えてください。
一度OSレスも検討しようと思ったのですが、既に高額機種ではUSBのミドルウェアを搭載していた経験があったのと、楽器としての性能上、リアルタイム性が要求されるため、やはりOSは必須と考えていました。ピアノの鍵盤が押された瞬間に、即座に繋がれた別の楽器から音が鳴らなければなりません。それに準じた処理が必要ということで、なるべくオーバーヘッドが軽く、即座に反応するのが望ましいということでした。
そういったことを加味しながら、一部の開発を委託する業者とOSをどこにするかを同時進行で検討していました。
――イー・フォースを知ったきっかけは何でしょうか?
インターネットで検索して、イー・フォースを知りました。検討しているCPUに対応していて、かつ簡単に評価できたのがイー・フォースでした。他にも有名なOSベンダを調査しましたが、その当時からCortex-Mに積極対応していたのはイー・フォースだけだったと思います。まずはμC3の無償評価版をダウンロードしました。
-評価時-
導入のしやすさや、分かりやすさ、使いやすさが決め手
――評価時に感じたμC3への印象を教えてください。
一番印象的だったのは、やはり導入のしやすさや、分かりやすさ、使いやすさです。タスク構成の修正をかける際に吐き出したコードを後から見ても分かりやすかったですし、コンフィグレータで再度設定ファイルを修正するにも、手間がかかりませんでした。
特に従来はコンフィグレーションに手間がかかっていて、スクリプトで書いていてタスクを全部指定していたのですが、μC3ではコンフィグレーターでコードを吐き出してくれたのは楽だなと思いました。
フリーOSも比較検討していたのですが、自社でメンテをしていくには大変だと思いました。やはりトラブルがあった際に問い合わせ窓口が無いと、全て自分で調べないといけないのが不安でした。その点、μC3はサポートが充実しているので、安心感があります。
そういった中で、最初の印象としては、「μC3は楽でいいな!」と思いました。分かりやすかったので、検討時に技術問い合わせをする必要もありませんでした。
イー・フォースとの打ち合わせを進めて行く中で、μC3の決定に関して、難航させる要素も特にありませんでした。
CPUメーカーが提供しているRTOSの事や、μC3のライセンスの詳細など、事前にしっかり話をさせて頂きました。もちろん、性能面での不安もありませんでした。
楽器メーカーに関する実績
開発の一部を外部に委託したんですが、その業者を選定していくにあたり、最終的にある程度楽器メーカーに関する実績のあった業者を選定したのですが、業者との打合せの中で、OSのことを相談した際に、既にμC3を使った事があるという事でした。楽器メーカーで実績のある業者がμC3を使っているというのは、やはり安心感がありました。さらに、μC3だと開発期間とテストについても随分と工数を抑えられるという話があったので、μC3にしない手はないと思い、採用を決めました。
また、業界で使用されているRTOSの多くがμITRONだったのと、外部に委託する際にもμITRONがデファクトスタンダードだったのも後押しし、採用しました。
-導入後-
導入前に感じた使い勝手の良さ、分かりやすさ、安定性などが無駄なトラブルを防いでいる
――導入後の実感としてはいかがでしたか?
大きな実感として、トラブルフリーで来ています。
導入前に感じた使い勝手の良さ、分かりやすさ、安定性などが無駄なトラブルを防いでいると感じています。
例えば、開発委託先に雛形となるプロジェクトを提供するフェーズがあるのですが、ペリフェラル駆動は除いてメインタスクの駆動を入れ込むのにほぼあっという間で出来上りました。
そのプロジェクトを提供するのにほとんど時間がかかりませんでした。
また、その委託先がミドルウェアを実装する過程でも全く問題ありませんでした。ミドルウェアのベータ版を使って最終的な評価を行ったのですが、実装段階でもスムーズで、導入で躓くようなことは全くありませんでした。
フットプリントの小ささというのは性能の一つ
ミドルウェアも含め、μC3のフットプリントが想像以上に小さかったのも導入後に感じたメリットの1つです。
当時、USB経由でPCからソフトウェアのアップデートをしたいという市場からの要求があり、その為には、メインプログラムとは別にアップデート専用のマイクロプログラムを別領域に完全に独立させて切り分けて動かす必要がありました。
USBのミドルウェアを動かすとなると、ミドルウェアとOS含めて実装しないといけないので、どうしてもプログラムサイズが大きくなってしまいます。しかし、μC3の場合、ミドルウェアも含めてフットプリントが小さかったため、メモリ容量を抑えることができました。フットプリントの小ささというのは性能の一つだと思います。
――その他、μC3へのフィードバックはありますでしょうか?
開発環境用のプラグインがあればいいなと思ってたのですが、既にありましたね(笑)。
今後の展望
付加価値の高い製品づくりを
――今後の展望についてお聞かせください。
楽器業界の流れとしては、今後はピアノ楽器としての機能は当然のこと、付加機能の充実が求められてきています。例えばスマホや、Bluetooth、オーディオなどの周辺機器と楽器が繋がるといった、モノと楽器を繋げ、相乗効果を生むという価値。それを受ける機能として、OSはやはり大きな効果を齎しています。今回、μC3を導入したことにより、大きな一歩を踏み出すことができました。今後もより良い商品開発を行っていく中で、重要な役割を果たしてくれると感じています。
会社概要
会社名 :株式会社河合楽器製作所
創業 :1927年8月9日
所在地 :静岡県浜松市中区寺島町200番地
事業内容:楽器の製造仕入並びに販売、音楽教室・体育教室の運営、金属加工品及び木工加工品の製造仕入並びに販売
URL :https://www.kawai.jp/